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2020.04.02

照明のデザイン

心地よい灯り

今から25~6年前、当時20代だった自分は、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアで1年過ごしました。マルーブラというシドニーから南へ10キロほどのところにあるローカル色の強い街で老夫婦の家にホームステイしていました。そこでの生活で感じたのは“部屋が暗い”という事でした。日本のように天井に部屋全体を照らす照明は無く、スタンドライトとテーブルライトが一つづつあるだけでした。たまたまホームステイ先の部屋がそうだったのではなく、夜の街を歩くと窓越しの灯りはどこもほんのりとオレンジ色の灯りがともっていました。最初は少し戸惑いましたが、日が経つうちにその明るさにも慣れ、気がつけばすっかり心地よくなっている自分がいました。
このようにオーストラリアをはじめ、欧米諸国では青白い蛍光灯を使う事はほとんど無く、白熱灯の照明を使う事が通常です。部屋全体を照らすのではなく、テーブルの真下など明るさが必要な箇所のみを照らしています。これは一つには瞳の色に関係があります。黒い瞳が大半の日本人と比べ、青や茶色といった薄い色の瞳の欧米人は、白色系の強い光を好まず、薄暗い程度の明るさを好むようです。欧米人が日中によくサングラスをかけるのも、このことが影響しています。
また欧米では照明をインテリアの一部ととらえる為、明るさよりも景観を重視する傾向があるようです。日本では照明は「部屋を明るくするためのもの」という概念が根付いていますが、欧米では部屋の雰囲気に合わせて照明の明るさも控えめにしているようです。お部屋は照明を工夫するだけでその雰囲気が大きく変わります。逆に言うと、せっかくいい間取りでプランできたリフォームも照明によって台無しになってしまう、なんてこともあるんですね。

照明計画

それでは具体的に普段のリフォームでどのような灯りの計画を心掛けているかのお話です。明るさの感覚は人それぞれで、十分な明るさを確保しているつもりが、お引渡し後に「ちょっと暗いわね」と言われてしまう事も。そんな事が無いように、調光機能が付いた照明器具を選んだり、天井や壁に間接照明を仕込んだりと、生活のシーンに合わせてご自分で一番居心地の良い明るさを探っていただけるよう工夫しています。今回はベルズが考える照明計画を昨年完成しました自宅兼事務所の実例をもとにご紹介したいと思います。

●灯りの重心を低くする
よくありがちな天井に明るい照明をつけると、お部屋全体が均一な味気ない灯りとなります。事務所や作業場であればいいですが、住宅の照明としてはおススメできません。灯りの重心を低くする事で、空間の重心が下がり落ち着いた雰囲気になります。最も分かりやすい例として下の写真は自宅の浴室です。なかなか旅行に行けないという事で、せめて自宅で旅館の雰囲気を味わいたい、そんな思いで設計しました。一目瞭然、照明をぐっと低い位置に取り付けた事で、落ち着いた浴室になりますよね。天井や壁の上の方に照明が取りついた既製のシステムバスには無い雰囲気です。

ブラケットライトの位置をグッと下げた浴室。

コチラはロフトの和室です。もともとロフトという事で天井が低いですが、ブラケットライトを一つだけちょっと低めに取り付けています。

●天井に照明を付けない
全く付けないという事ではありませんが、ダウンライトも必要最小限にしたいと考えています。先ほどもお話しましたが、天井に付けるとお部屋全体が明るくなり、重心も上がってしまいます。天井に付けない代わりに必要な場所にフロアスタンドを置いたり、ブラケットライトを壁に取り付けたりします。天井に直付けしなければペンダントライトを吊り下げてもいいですね。

リビング
コチラはリビングです。2台あるソファの脇にそれぞれフロアスタンド、ブラケットライトを設置しています。この2つだけで天井には何もつけません。天井がスッキリしますよね。


●器具の特徴を知り、場所にあった器具を選ぶ
照明器具は大きく分けると2種類あります。一つは全体を照らすもの、もう一つは部分的に照らすものです。ランプシェードに布やガラスのような透過する素材を選ぶと、天井や壁にも光が広がり、明るく感じます。これらの照明を必要な箇所に必要なだけ配置すると、お部屋全体が明るくなってしまいます。抑揚のあるメリハリが効いた空間にするには、光が透過しない素材を使った器具も織り交ぜて配置します。下の写真はLDKです。キッチンにはガラス素材のペンダントライトを取り付けていますので、キッチンまわりが全体に明るくなります。その横のダイニングには光が透過しないアルミ素材でできたペンダントライトを吊り下げテーブルの下だけを照らします。更に手前のリビングは布素材の照明でソファまわり全体が明るくなります。いかがでしょうか。もしダイニングのペンダントライトも光が透過してしまうとLDK全体が明るくなり抑揚がなくなってしまいますよね。LDK全体を一つの空間ととらえて、配置した照明がどういう光り方をするのかをイメージします。


●照明器具はシンプルなものを
建築家の吉村順三氏の言葉に「欲しいのは照明器具ではなくて灯りである」という有名なフレーズがあります。見た目に凝った照明器具はそれだけで存在感があます。お部屋のアクセントとして見た目で照明器具を選ぶという事はありますが、必要なのは灯りです。ベルズでは必要な場所にふさわしい大きさ、明るさを持ったものを選択し、居心地の良い空間づくりを心掛けています。


まとめ

いかがでしたでしょうか。普段お客様のお宅をプランする際、暗いと感じないよう保険の照明を組み込んだりしますが、今回自宅という事で、一切の迷いは捨て、最低限必要な灯りだけを考えました。こっちにも、あっちにもと暗さへの恐怖から照明器具を配置していくとそれぞれがケンカして想像以上に明るい空間になってしまいます。実験の意味も含めて計画しました自宅の照明デザインですが、結果、大成功です!あくまでも主観ですが(笑)。お家は昼間よりも夜のほうが長い時間過ごすことが多くなります。昼の灯りをそのまま夜再現するのではなく、日頃の生活を振り返りながら、リラックスできる灯りをイメージしてみましょう。昼と違い外が暗いので、それほど明るくしなくても十分明るさを感じられます。皆さんもご自宅の灯りを今一度イメージしてみてはいかがでしょうか。